子どもの貧困対策センター 公益財団法人あすのば

子どもの貧困対策センター 公益財団法人あすのば

2020.01.20|

2019年の活動報告と2020年に向けた取り組み

法改正などの前進をバネに どの子も取り残されない社会へ
-2019年の活動報告と2020年に向けた取り組み-

 

公益財団法人あすのば
代表理事 小河光治

 

 昨年は、大変お世話になりました。日頃より温かいご理解、ご支援をいただきありがとうございます。今年も引き続きよろしくお願いいたします。

 

 子どもの貧困対策法の改正とその大綱の改定、未婚ひとり親と父子家庭の父親に対して婚姻歴や男女の違いに関係なく平等なひとり親の所得控除の実現など、昨年は子どもの貧困解消に向け大きく前進した1年でした。

 


 

調査データや子どもの声を活かし子どもの貧困対策法改正へ

 

 当事者の学生や市民運動で2013年6月19日に成立した「子どもの貧困対策法」。その2年後の2015年6月19日にあすのばが設立。法成立から6年後の昨年6月12日の参議院本会議でその改正法案が全会一致で可決、成立しました。

 

 この4年間、あすのばに関わる若者たちは、全国集会や周年行事、各地でのキャラバンなどで、自分たちの経験に基づく思いや意見を表明し、議員や行政、市民の方々に耳を傾けていただきました。

 

 また、あすのば入学・新生活応援給付金を受けた子どもや保護者への調査データや「生の声」が法改正に与えた影響力も少なくありません。2018年2月には、超党派の国会議員による子どもの貧困対策推進議員連盟との共催で調査結果の中間報告会を国会内で開催し、多くの国会議員や市民が参加。報道各社は、大きく報じました。

 

中間報告会

 

 

 

 その後も「なくそう!子どもの貧困」全国ネットワークや研究者の方々とともに、法改正の提言を議連に申し入れました。そして、これらの提言の多くが法改正に反映されました。

 

 法の目的と理念に、将来だけではなく、現在の貧困も含め、その解消に向けて対策をすすめること。子どもの権利を尊重すること。貧困を「自己責任」に帰する社会の風潮を払拭するために「背景にさまざまな社会的要因があること」が明記されたことは、大きな意味があります。

 

 また、当事者である「子どもや保護者など意見の尊重」が加わり、昨年6月の大綱改正のための内閣府の有識者会議では、児童養護施設で生活する高校生やシングルマザーの方々がご自身の体験を含めた意見を発表しました。

 

 そして、都道府県のみならず、「市町村における貧困対策計画の策定」が努力義務に加わりました。生活基盤のある市町村でも実効性の高い計画策定はとても重要です。

 

 さらに、現在の貧困改善とワーキングプアの解消に向け、「保護者の所得の増大、職業生活の安定と向上」が明記されました。

 

 加えて、「施策の実施状況の検証・評価と推進体制」も追記されました。計画、実行、検証・評価、改善というPDCAサイクルによる対策推進が大切です。

 

   法改正の主なポイント

○貧困対策のすいしんのみならず、「貧困の解消」が明記

「子どもの権利の尊重」が追加

○貧困の連鎖を断ち切るだけではなく「現在の状況の改善」

○貧困の「背景にさまざまな社会的要因があること」が明記

○当事者である「子どもや保護者などの意見の尊重」が追加

「市町村における貧困対策計画の策定」が努力義務に

「保護者の所得の増大、職業生活の安定と向上」が明記

「施策の実施状況の検証・評価と推進体制」が追記

 


 

今後の課題は、指標の改善目標設定や所得の再分配強化

 

 改正法は、昨年9月に施行され、11月には子供の貧困対策に関する大綱が閣議決定されました。新大綱も、法改正が反映され前進しました。生活保護世帯、ひとり親世帯、児童養護施設など社会的養護のもとで生活する子どもが貧困対策のメインターゲットでしたが、それ以外の多様な世帯や子どもへの支援についても明記されました。

 

 保護者の健康状態の悪化、家族の世話に追われる子ども、障害や外国にルーツを持つ子どもや親、ひとり親世帯のみならずふたり親世帯を含む困窮世帯への支援などについても言及されています。

 

 また、指標は25から39に増えました。電気・ガス・水道料金の未払い経験、食料や衣服が買えない経験、頼る人がいない人の割合、就学援助の入学準備金の入学前支給の実施状況などが加わりました。

 

 一方で、法改正や大綱改定で盛り込まれなかった課題も少なくありません。

 

 子どもの貧困に関する指標の改善目標の設定と所得の再分配機能の強化は、明記されませんでした。ひとり親世帯の貧困率は、OECD加盟国で最悪の状況です。また、東京オリンピック後には、景気の後退もあるのではという予測もあります。将来のみならず、現在の貧困解消には、その改善目標を立て、所得の再分配を着実にすすめることが不可欠です。

 


 

未婚ひとり親と父子家庭の父親に対し公平な税制改正が実現

 

 もう一つの昨年の大きな成果は、未婚ひとり親と父子家庭の父親に対し、公平な税制改正が実現したことです。昨年12月に発表された2020年度与党税制改正大綱では、配偶者と死別・離婚した人の税負担を減らす「寡婦(寡夫)控除」を未婚のひとり親にも適用することが盛り込まれました。改正では、現在の男女間格差も解消。年間所得500万円(年収678万円)以下のひとり親であれば、婚姻歴や男女を問わず所得税は20年分から35万円、住民税は21年度分から30万円の所得控除が適用されます。これで婚姻歴の有無や男女の違いで税負担が異なる理不尽な状況が改善されます。シングルマザーサポート団体協議会や全国母子寡婦福祉団体協議会とともに訴えてきた悲願が達成しました。

 

 母子世帯106万3千世帯のうち未婚は17万7千世帯で17%を占め、死別6万7千世帯の2.5倍にもなります。さらに未婚母子世帯数は、この15年間で2倍に急激しています(2015年「国勢調査」)=下記グラフ=。

 

 

 さらに、未婚の母の年間就労収入は平均177万円で母子世帯全体の平均額より23万円も少なく、厳しい生活を強いられています(2016年「厚生労働省全国ひとり親世帯等調査」)。しかし、これまでは寡婦控除による税負担軽減がなく、この春から本格実施される大学などの無償化制度では、寡婦控除の有無で年間54万円もの給付額の格差が生じることになります。

 

 さらに、今回の適用拡大は、未婚ひとり親世帯の方々の尊厳を守る大きな意義があります。「厳しい状況の中で子育てをされてきたことは全く間違いではない。胸を張って堂々と生きていいんです」というメッセージを送ることにつながります。

 

 未婚ひとり親世帯への寡婦控除の実現までは、長い道のりでした。まず、市町村議会で寡婦控除のみなし適用が実現し、全国各地に広がりました。その後、公営住宅に入居する際に受けられる優遇措置の対象に、未婚のひとり親を追加。保育料など厚生労働省の25施策で「みなし適用」が広がり全国一律の制度となり、今回の抜本的な見直しにつながりました。公明党と自民党女性議員の方々のリーダーシップで与党が結束したことに加え、超党派の子どもの貧困対策推進議員連盟からの働きかけも含め、まさに「ONE TEAM」でスクラムトライを決めたと言えます。こうして、ひとり親世帯すべてに等しく光が当たる制度になりました。

 


 

「全国キャラバン」これまでに37都道府県で開催

 

 こうした政策提言の活動のみならず、おかげさまでその他の事業もさらに充実しました。子ども支援をしている団体などへの支援事業では、「子どもの貧困対策 全国47都道府県キャラバン」をこれまでに37都道府県で実施しました(2015年度実施の交流会・意見交換会を含む)。全国各地で子どもたちの実態や子ども支援の実情などについてうかがい、啓発とさらなる対策の拡充を目指して実施しています。2019年には、新潟、福井、青森、宮崎=写真=、和歌山、大分で開催し、今年1月には愛媛、3月には群馬で開催予定です。いよいよ来年度には、全都道府県での実施となる予定です。

 

全国キャラバンin宮崎

 

 子どもたちへの直接支援事業では、「入学・新生活応援給付金」事業を実施しています。今年度は5千人を超す申し込みがありました。現在、審査をすすめており、決定者には3月末までの送金を予定しています。また、昨年3月には、2泊3日の小中学生の「合宿キャンプ」を、8月には高校生や大学生らの3泊4日の「合宿ミーティング」を行いました。

 


 

子ども・若者や保護者の声を大切に歩み続けます

 

 昨年の大きな前進をバネにして、さらに今年も、どの子どもも誰一人取り残されることない社会づくりをすすめなければなりません。

 

 働きたいけれども働けないひとり親にも光を当てていく必要があります。また、両親がいても非正規雇用など厳しい状況で子どもを育てている家庭もあります。児童扶養手当の基本額アップやこうした手当をひとり親世帯以外の家庭にも対象を拡げていくことなどが求められています。

 

 今後も子ども・若者や保護者の方々の声や調査データの蓄積などさらに説得力の高い根拠を示していくことに加え、議員や行政のみならず社会全体の関心と理解をより深める必要があります。

 

 また、こども食堂や学習・生活支援、居場所事業など民間の子ども支援の活動も全国各地で拡がっています。「あなたのことを大切にしているよ」という各地での人々の温もりあふれる活動がより充実するための事業にもさらに力を注ぎます。

 

 さらに、入学・新生活応援給付金や春休み・夏休みの合宿など子どもたちへの直接支援事業も拡充させます。
 今年も子どもや若者たちとともに歩み続けていきます。引き続き温かいご理解、ご支援をよろしくお願いいたします。

 

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