子どもの貧困対策センター 公益財団法人あすのば

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2018.07.06|

子どもの生活と声1500人アンケート最終報告書

 公益財団法人あすのばでは、子どもの貧困の実態を「見える化」し、対策をさらに前へすすめるため、2017年3月に「入学・新生活応援給付金」を届けた子どもたちと保護者に初めて大規模アンケート調査を実施しました。このアンケートには、全国1500人以上にご協力いただき、結果は「子どもの生活と声1500人アンケート最終報告」として法成立5周年を迎える2018年6月に公表しました。

 

子どもの生活と声1500人アンケート最終報告書はこちら

 

 「子どもの生活と声1500人アンケート最終報告」で明らかになったことは、貧困状態の多様性です。
 子どもの貧困対策法が成立して以来、主にひとり親や生活保護家庭、社会的養護のもとで暮らす子どもたちへの対策が少しずつすすめられてきました。一方、13.9%という子どもの貧困率はじめ、貧困がある意味で「ざっくり」とした単一的な理解にとどまり、基準が厳密化された「支援の崖」、制度ができても当てはまらない「新しいあきらめ」をも生み出す事態が現場では起きつつあります。
 この現状に対し、アンケートにご協力いただいた一人ひとりのお力により、多様な生活状況とさらにきめ細かな対策、子育て世代の全体的な底上げ、普遍的に教育費など負担軽減の必要性を量的にも質的にも明らかにすることができました。

 

<貧軸(経済的な状況)について>

 

 最終報告では、まず全体的な傾向として主に「貧軸(経済的な状況)」と「困軸(困りごとの状況)」の二軸で結果を分析しました。
 「貧軸」について、保護者の就業率が74%と高い割合にもかかわらず勤労月収の中央値は手取りで11万7千円でした。児童手当など諸手当を含めた総年収の中央値は203万円で、給付金を利用した家庭の86%は年間300万円未満で暮らしていました。また、76%の家庭は貯金について50万円未満か「ない」と回答しました。
 また、65%の家庭では子どもが小学生の頃までに経済的に厳しい状況になり、高1世代の3人に1人(33%)は入学からアンケート実施までのおよそ半年間でアルバイトを始めている状況でした。

 

<困軸(困りごとの状況)について>

 

 保護者の健康状態は、41%が「良くない」または「どちらかといえば良くない」と回答し、生活保護世帯の保護者はその割合が63%にのぼりました。
 また、子どもたちが経済的な理由であきらめた経験は、「塾・習い事(保護者票・69%)」、「洋服や靴、おしゃれ用品(子ども票・52%)」、「スマートフォンや携帯(子ども票・30%)」、「海水浴やキャンプなどの経験(保護者票・25%)」、「お祝い(保護者票・20%)」などが高い割合でした(複数回答)。なかでも、幼少期から経済的に困窮している家庭や子どもほど、さまざまな経験をあきらめている傾向にあり、あきらめる経験を積み重ねながら大人の階段をのぼる「あきらめの連鎖」が浮き彫りとなりました。
 アンケートの結果から、子どもにとっての3つの“R”<あたりまえ(Right)、つながり(Relationship)、おもいで(Recollections)>も分析されました。これは、単に「経験をあきらめた=貧困」ではなく、経済状況が今の子どもにとっての「あたりまえ」に影響があり、その「あたりまえ」が奪われることで周りや社会との「つながり」や、大切な「おもいで」の形成も奪われてしまうリスクがあることに焦点を当てています。

 

「大人の階段をのぼることがこんなにも複雑な気持ちになるなんて、小さい頃にはわかりませんでした。親がいて、家に帰ったらみんなでご飯を食べて、一緒にテレビをみて、でも年齢があがると忙しくなって家に帰る時間が遅くなって今まで一緒にいた時間があたりまえじゃなくなりました」

 

「自分は、野球部のマネージャーを務めていました。けれど、母子家庭ということもあり、下に2人妹と弟がいることもあり、部活動を辞めざるを得ない状況になりました。母子家庭がこんなにつらくて、苦しくて父親がいないなんてこんなにつらいことだと初めて気づきました」

 

 自由記述でも子どもたちの声から貧困が3つの“R”を奪うリスクをうかがえます。検討会では学生から「今の子どもたちが必要であたりまえと思っていることを、大人や社会に理解してもらえないことが一番しんどい」という意見もありました。

 

<貧困状態のパターンとその多様性>

 

 さらに、互いに似た性質を持つものを集め、対象を分類するクラスター分析も行いました。その結果、貧困状態にある保護者は10パターンに分類され、5パターンのとくに典型的な家庭像(ペルソナ像)が最終報告では分析されました。

 

(1)ふたり親で多子の家庭 ~支援が少なく、既存の制度の対象外に~(構成比率8%)
 ふたり親で給付金を受け取った子どもと、高校生、中学生の子どももいる5人家族。共働きで、父親は障害を抱えていて非正規雇用。月の手取りは両親あわせて15万円程度。手当は児童手当のみです。

 

(2)貧困状態が連鎖している家庭 ~親が子どもの頃もひとり親家庭で育った~(構成比率12%)
 保護者が子どもの頃もひとり親家庭で育ちました。20代前半と他のパターンと比べて若い年齢で子どもを出産。部活や進学もあきらめ傾向に。

 

(3)ひとり親家庭①~生活保護を利用せず、貧困線未満の非正規で働く母親~(構成比率18%)
 ひとり親家庭で子ども2人の3人家族です。非正規で働き、月の手取りは9万7千円。児童手当が4ヶ月に1回8万円と、児童扶養手当が4ヶ月に1回約21万円で、総年収は204万円(貧困線は約211万円)。貯金はほとんどありません。

 

(4)ひとり親家庭② ~ダブルワークで働いても、貧困線ギリギリでこの先が心配~(構成比率9%)
 母親と高校生の子ども1人の2人家族。子どもが中学生になる頃から経済的に厳しい状況に。派遣と非正規の仕事で、1ヶ月の手取りは10万5千円。児童扶養手当含め総年収は177万円。2人世帯の貧困線は約172万円でギリギリ上回っている状態です。

 

(5)生活保護家庭 ~体調が良くなく働けない母親、支援へのニーズも高い~(構成比率7%)
 保護者の健康状態が良くなく働くことのできる状態ではありません。生活保護は6年くらい利用。他のパターンと比べて経済的にあきらめた経験も支援ニーズも全体的に高い傾向。過去の職場や地域などの関係も「悪い」傾向です。
 この他のパターンにも、父子家庭や祖父母が子どもを育てている家庭、また、子どもの世代ごとなどの多様性もみられました。

 

 今回の分析には、末冨芳・日本大学教授をはじめとした研究者、実践者、学生世代など幅広い検討会メンバーと日本アイ・ビー・エム株式会社にも社会貢献活動として多大なご協力をいただきました。アンケートにご協力いただいたみなさま、分析にご協力いただいたみなさまに心から御礼申しあげます。

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